2013.03.31
一筋の道を歩くなり
[ 神楽坂 貞 ]
旅人は一筋の道を歩くなり
他の道が美しきあり立派でもあるが
彼は自分に許された一筋の道を歩くなり。
その道を歩けば
何処にゆくか彼は知らぬなり
されど歩くなり
その道のみ
彼に許された道なり。
淋しくも歩くなり
こつこつと歩くなり
つまらぬ道と他人は言えども
彼はその道を愛して
こつこつと進むなり
平凡な道なれども
その味わいは限りなしと思うなり
いくらでも見あきぬ道なり
彼は感謝しつつその道を歩くなり。
自分にも歩ける道
自分に相当した道
自分に許された道
謙遜な気持ちで
彼はその道を歩くなり
彼は倒れる迄歩くなり
死ぬまで歩くなり
生きている限り歩くなり
歩けなくなるまで歩くなり
いくら歩いても道は遥かに遠く
つづくなり。
旅人はいつのまにか齢をとりたり
されど歩くなり
無限の道を歩くなり
希望の天使に護られながら
歩くなり、死ぬまで歩くなり
歩ける処まで歩くなり
旅人は一筋の道を歩くなり。
武者小路実篤
Tweet